遺族年金シリーズ最終回、「遺族年金よくあるQ&A」です。
一生のうち、遺族年金に関わる機会など、あって1、2回でしょう。
皆さん初めてのことで戸惑うばかりです。
それが当たり前ですから、ひとりで悩まずにいろいろ聞いていただきたいです。
年金事務所の職員も、そのような対応に慣れていますので、丁寧に対応いただけるはずです。
ここではよく聞くご質問をQ&A形式でまとめてみました。
皆さんと一緒に学んでいきましょう。
この記事の目次
【遺族年金Q&A①】
障害年金を受給している夫が亡くなった場合、妻は遺族年金を受け取れるのか?
障害年金をもらっていた夫が先日亡くなりました。
私(妻)は遺族年金を受け取ることはできますか?
「障害厚生年金」を受給していた夫が亡くなった場合、遺族は「遺族厚生年金」を受け取ることができます。
ただし、受け取っていたのが「障害基礎年金」であった場合は、遺族年金を支給する制度はありません。
【遺族年金Q&A①】について解説します。
公的年金は「2階建て」の構造です。
1階部分は自営業者等が加入する「国民年金(基礎年金)」、2階部分は会社員や公務員が加入する「厚生年金」になります。
障害年金も老齢年金と同じく「障害基礎年金」と「障害厚生年金」という2階建て(※)の構造です。
(※)「『障害年金』を学ぶ③ ~障害年金の金額について~」 参照
「障害基礎年金」を受け取っていた方が亡くなった場合は「遺族基礎年金」を受け取ることはできませんが、「障害厚生年金」を受給していた方が亡くなった場合は、「遺族厚生年金」を受け取ることができます。
ただし、下記の条件があります。
「障害厚生年金」は、障害等級1~3級に認定された方が対象です。
その中で障害等級1級または2級の「障害厚生年金」を受けている方が亡くなられたときは、その亡くなられた方に生活を支えられていた遺族は「遺族厚生年金」を受け取ることができます。
また、「障害厚生年金」を受け取れることとなった原因と亡くなった場合の死因が一致しなくても「遺族厚生年金」はもらえます。
『精神障害を理由に「障害厚生年金」を受給していた方が交通事故で亡くなった場合に「遺族厚生年金」が支給される。』というようなケースです。
しかしながら、3級の「障害厚生年金」を受けていた方の場合、亡くなられた原因が障害年金を受ける原因と同じ病気である場合に限り、「遺族厚生年金」が支給されます。
なお、その場合の「遺族厚生年金」の金額は、亡くなった方(夫)が受給していた「障害厚生年金」の3/4になります。「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の合計額の3/4ではありませんので、ご注意下さい。
【遺族年金Q&A②】
在職老齢年金により年金が支給停止されている場合、遺族年金に影響するのか?
現在、就労中のため、「在職老齢年金」の制度によって年金の支給が停止されています。もし、私が亡くなった場合には、妻が受け取る遺族年金も支給停止されますか?
「在職老齢年金」の仕組みは遺族年金に影響しません。
また、金額も「在職老齢年金」により支給停止されていない金額をもとに計算されます。
【遺族年金Q&A②】について解説します。
就労しながら受給する老齢厚生年金を「在職老齢年金(※)」といいます。
給料(総報酬月額相当額)と年金月額の合計額に応じて、一部または全部の支給が停止される制度です。
2022(令和4)年4月からは65歳未満、65歳以降ともに給料と年金月額の合計が、50万円(2024(令和6)年度)を超える場合に支給停止されます。
なお、総報酬月額相当額は「(その月の標準報酬月額+直近1年間の賞与の合計額)÷12」、年金月額は「本来の年金額(老齢厚生年金)÷12」で計算します。
(※)「在職老齢年金」の詳しい内容については下記のページをご参照ください。
『在職老齢年金』を学ぶ
上記のとおり、「在職老齢年金」が適用されるのは、あくまでも老齢厚生年金です。
奥様が受け取る遺族厚生年金には影響がありません。ご安心下さい。
なお、国民年金の老齢基礎年金は在職中であっても支給の停止はありません。ただし、受給者が亡くなるとその権限は消滅します。
年金は2階建て構造であることをお忘れなく。
【遺族年金Q&A③】
夫が妊娠中に死亡した場合、妻は遺族年金を受け取れるのか?
私が妊娠中に夫が亡くなりました。亡くなった時には子供が いないことになります。私は遺族年金をもらえるのでしょうか?
遺族基礎年金は、本来は「子のある妻」が受け取れる年金ですが、 夫の死亡時に胎児であった子が生まれた場合は遺族基礎年金を受け取ることができます。
【遺族年金Q&A③】について解説します。
「遺族基礎年金」は「子のある妻」に支給されます。
逆に言いますと子供のいない妻は「遺族基礎年金」を受け取ることができません(※)。
(※)詳しい内容は下記のページをご覧ください。
『遺族年金』を学ぶ①~誰が受け取れるのか?~
また、本来は、お腹の中の胎児には権利能力はありません。
しかしながら、国民年金法(第37条第2項)では、「死亡の当時胎児であった子が生まれたときは、将来に向かって、死亡の当時その者(夫)によって生計を維持していたものとみなす」としています。
そのため、子供が生まれた翌月から「遺族基礎年金」を受け取ることができます。
(夫の死亡時点に遡って支給される訳ではありません。)
なお、「遺族厚生年金」は扶養されている配偶者(妻)に支給される年金です。
夫が一定の要件を満たしている場合は、亡くなった月の翌月から支給されます。
また、年金額は夫の厚生年金の報酬比例部分の3/4になります。
なお、妻が他の方と再婚された場合には遺族年金の受給権は消滅します。
また、再婚された方が、その後に離婚されても再度受給権が発生するものでもありません。
一度、消滅した受給権は回復しないのです。
【遺族年金Q&A④】
DVから逃げて別居していた夫が死亡。妻は遺族年金を受け取れるのか?
夫の暴力が原因で別居していた私はこれまで夫からお金を受け取らずに過ごしてきました。
その後、夫が亡くなったと聞きました。私は遺族年金を受けとることができるのでしょうか。
事情によっては、遺族年金の受給が認められる可能性もあります。ケースバイケースと言わざるを得ないのですが、年金事務所などでご相談をすることをお薦めします。
【遺族年金Q&A④】について解説します。
遺族年金の受給対象者は「死亡した方と生計を同一にしていた」遺族というのが前提です。
しかしながら、今回のように死亡時に既に住民票を移しているケースなどは、生計同一関係が証明しづらくなります。
別居中の場合は、「単身赴任,就学又は病気療養等のやむを得ない事情」により生活費・療養費等の経済的な援助が行われ、定期的に音信や訪問が行われていることといった事実が認められる場合は、生計同一の条件を満たすものされています。
ただし、判例では「暴力によって被害がひどく別居せざるを得なかった事実を確認できたこと」、「別居の際に同居時の貯蓄金を持ち出したが返却を迫られなかったこと」などの理由の場合は、「夫婦の在り方にも様々なものがあり得ることに照らせば,生計同一要件を満たすと評価される場合を認定基準に定める場合に限定するのは相当ではない」としています。
そのため、遺族厚生年金の支給裁定をすべき旨を裁判所が命じたケースもあります。
すべてのDVのケースで生計同一関係が認められるものでもありません。
ケースバイケースと言わざるを得ないのですが、あきらめずに、まずは年金事務所等でご相談されることが肝心です。
【遺族年金Q&A⑤】
「未支給年金」って何?
年金を受け取っていた夫が亡くなりました。
遺族年金の手続きをしていたら、年金事務所の方に「未支給年金」も手続きして下さいと言われました。
そもそも、「未支給年金」って何なのかしら?
「未支給年金」とは、年金受給者が亡くなった時に死亡前に受け取れた年金のことです。亡くなった方と生計を同じくしていた遺族に支払われます。
【遺族年金Q&A⑤】について解説します。
年金が支払われるのは、2月・4月・6月・8月・10月・12月の年6回で、それぞれの前2ヵ月分が支払われます。たとえば、4月・5月分の年金は6月15日に支払われるのです。
逆にいうと、「今月分の年金は1ヵ月先か2ヵ月先でないともらえない」ということになります。
また、年金は「支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月」から「受給権が消滅した日の属する月」まで支給されます。つまり、老齢年金の支給は、原則65歳に達した日の翌月から始まり、亡くなった日の月に消滅するのです。
亡くなった人が本来もらえるはずなのに、亡くなったためにもらうことができない年金が「未支給年金」です。
受給者は死亡した月分の年金をもらう権利がありますが、当然ながら亡くなったことで本人は年金を受け取ることができません。「未支給年金」は年金の仕組み上、必ず発生してしまうものなので、早めに手続きをしましょう。
年金受給者が亡くなったとき、遺族はすみやかな『死亡届』の提出が必要です。
その『死亡届』と一緒に「未支給年金」の請求書も提出しましょう。その手続きにより、後日、遺族の指定口座へ振り込まれることになります。
※「未支給年金」の詳しい内容は下記のページをご覧ください。
もらえるはずの年金ともらい過ぎた年金
【年金・社会保険】“目で見る”年金講座シリーズ【第12回】
遺族年金は複雑です。
わからないことは、最寄りの年金事務所等で相談を
遺族年金は複雑で、わかりにくい制度です。
少しでもわからない事がある場合は、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターにご相談されることが問題解決の早道です。
亡くなられた方が国民年金の受給者であれば、市・区役所または町村役場の国民年金の窓口でも相談を受けられます。
また、手続きは市・区役所または町村役場の国民年金の窓口(死亡日が第3号被保険者期間中である場合は年金事務所または街角の年金相談センター)となります。
肝心なことは『一人で悩まないこと』、そして、『相談できる先を見つけておくこと』です。
※ 日本年金機構ホームページ[全国の相談・手続き窓口]より
最後に
いかがでしたでしょうか。
今回のQ&Aが、ご自分のケースに当てはまるものがあって、遺族年金の理解の一助となれば幸いです。
遺族年金を学ぶシリーズを最後までお読みいただき、ありがとうございました。
遺族年金を受給するということは、亡くなった方の遺志を引き継ぐことです。
生きているうちの年金の積み立てに感謝をしながら、日々を過ごしていただきたいと考えております。