2020年年金改正では、①短時間労働者への厚生年金の適用拡大、②在職老齢年金の見直し、③繰下げ受給可能年齢の選択肢の拡充の3つが、大きなポイントになっています。今回は1つ目の、パートなどの短時間労働者(いわゆる「非正規雇用者」)の厚生年金への適用がどのように変わるのかについて解説します。
1厚生年金に適用されるパート労働者・されないパート労働者
1号・3号にも雇用されている労働者は多い
「厚生年金の適用拡大」とは、わかりやすく言うと、パート労働者である国民年金の第1号被保険者および第3号被保険者を、第2号被保険者として厚生年金に加入できる方向に制度を改めていくということです。
まず、国民年金の被保険者の種類と状況を確認しておきましょう(第3回『どんな年金が、いつ、もらえるのか?』参照)。
第1号被保険者は「自営業者や学生など」と説明されることが多いですが、実際には第1号被保険者の約3割は非正規雇用者です(図表1)。
また、第2号被保険者はよく「サラリーマン・公務員等」と説明されますが、第2号被保険者でも2割程度は正規雇用者でありません。「パート・アルバイト」の約3分の1は第2号被保険者が占めています(図表2)。
第3号被保険者は「第2号被保険者に扶養される配偶者」ですが、専業主婦(夫)と言っても、第3号被保険者の半数以上は就業している実態があり、その多くは非正規雇用者です(図表3)。
【図表1】第1号被保険者の就業状況
【図表2】パート・アルバイトの公的年金加入状況(20~59歳)
【図表3】第3号被保険者の就業形態(20~59歳)
こうした状況を背景に、「雇用されて働く者は働き方や企業規模・形態にかかわらず厚生年金保険の被保険者となり、基礎年金に加えて報酬比例給付による保障を受けるべき」「労働者の働き方や企業による雇い方の選択によって不公平が生じたりすることがないようにするべき」などの考えから、政府は厚生年金の適用拡大を進める方針をとってきており、今回の年金制度改正においても、後述するような適用拡大策がとられたわけです。
企業規模の緩和が改正のポイント
それでは、非正規雇用者は現行の制度では、どんな場合に厚生年金に適用されるのか、どんな場合に適用されないのかを見てみましょう。図表4のフローチャートに整理してみました。
【図表4】非正規雇用者の厚生年金の適用(現行制度)
今回の改正で、図表4のマーカー部分が変更され、適用条件が緩和されることになります。
具体的には、「企業の従業員数が501人以上」という適用条件が、2022年10月に「101人以上」へ、2024年10月には「51人以上」へ緩和されます。あわせて、「雇用期間が1年以上見込まれること」という勤務期間要件はフルタイムの被保険者と同様の「2ヵ月超」という要件が適用されることになります。
これをフローチャートに反映すると、図表5のようになります。
【図表5】制度改正後の非正規雇用者の厚生年金の適用
次項では、この改正による影響と、今後の課題について見てみましょう。
1.現行制度では、勤める企業の従業員規模により、非正規雇用者でも厚生年金に適用される者と適用されない者がいる
2.2020年年金改正により、厚生年金に適用可能となる企業規模要件が、段階的に一部緩和されることなった
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① 厚生年金に適用されるパート労働者・されないパート労働者