烏山眼科の福下公子(ふくしたきみこ)先生烏山眼科の福下公子(ふくしたきみこ)先生

 老視(いわゆる老眼)を感じるようになるのと同時期に、黒い何かが見える「飛蚊症」を自覚するようになった方もいらっしゃるでしょう。でも、飛蚊症の原因や対処法は意外と知られていないのではないでしょうか。予防法はないのか、いったん発症したら改善の方法はないのかなど、飛蚊症との向き合い方を、烏山眼科医院院長の福下公子先生に伺います。

飛蚊症ってなに?1飛蚊症ってなに?

『見える』ものはさまざま

 『飛蚊症』という言葉通り、一般的に『実際に眼の前にいないのに、小さい点が動いて蚊が飛んでいるように見える』といった症状のことを飛蚊症と呼びます。一つの症状であり、飛蚊症自体は病名ではありません。一言で『飛蚊症』といっても、1匹の蚊が飛んでいるように見える場合や、たくさんの蚊のように見える場合など、見え方はさまざまだといいます。

飛蚊症の症状の主な例

・蚊が飛んでいるように黒い点が動いて見える

・小さな点が複数動いてたくさんの蚊が飛んでいるように見える

・糸くずのようなものが浮かんでいるように見える

・タバコの煙のようなものが見える

・カエルの卵のような鎖状のものが浮いている

・ゴマをまいたように小さな粒がたくさんある

・カーテンを降ろすように幕のようなものが視界に降りてくる

 福下先生によると、患者さんによっていろいろな訴えがあるそうです。
 「お風呂場の掃除をしていたら、虫が走っているのが見えた。ハッとしてそちらを見ても虫はいない。別の部屋に行っても、また虫が横切る。それで目の問題ではないかと心配になって受診したという方がいらっしゃいました。普段気にならなかったけれど、白い壁などを見た時に気づく場合も多いようです。原因や状況によって、見え方はさまざまです。」(福下先生)

飛蚊症の多くは加齢とともに発症

 では、眼の前には無いものがなぜ見えるのでしょう? 実は眼の中にあるものが見えているのです。
 眼球には、『硝子体(しょうしたい)』というゼリー状の組織がつまっています。光は角膜から入り、硝子体を通過して網膜に達しますが、硝子体の中にある『硝子体線維』という組織や何らかの濁りに光が当たると、網膜に影を落とすのです。硝子体は歳を重ねるとともに柔らかく液状化していき、まぶたの開閉などで眼球が動いた際に硝子体が移動して中にある線維などが揺れるため、その影を自覚するようになります。これが『動く黒いもの』の正体です。
 「硬いゼリー状の硝子体であれば同じ形を維持していて影が動きませんから、飛蚊症を訴える子供はほとんどいません。硝子体が加齢で柔らかくなったことによる飛蚊症は、自然に起こる生理的な現象で(『生理的飛蚊症』)、40~50代からたくさんの方に発症します。さらに硝子体がしぼむと、後ろ側の部分が網膜から離れる『後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり)』の発生への移行が多く見られます。網膜からはがれた部分が突然はっきり見えるため、驚いて受診される方もいらっしゃいますが、年齢からくる剥離であればたいていの場合加療の必要はありません。」(福下先生)

病気がもたらす飛蚊症もある

病気がもたらす飛蚊症もある

 飛蚊症には前述の生理的な現象のほか、病気による何らかの硝子体の濁りが影として認識されていることもあります。原因となり得る病的な原因には、以下のようなものがあります。原因が病的な飛蚊症の場合、できるだけ早く治療を受ける必要があります。

病的な飛蚊症の代表的な例

●眼底出血(糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症など)

 ボール状の眼球を外から見たとき、黒目の奥の底に当たる部分が『眼底』。ここに張り巡らされた細かい血管が出血を起こすと、その血液が硝子体に流れ出て飛蚊症として認知される。眼底出血の中でも、糖尿病が進行して損傷を受けた血管が切れたりする『糖尿病網膜症』、高血圧、動脈硬化等により静脈がふさがれて圧力がかかり、やがて破裂する『網膜静脈閉塞症』などは失明につながることがあるので要注意。

●網膜剥離(もうまくはくり)

 『網膜』は、眼底内面を覆って目に入った映像を写すフィルムの役割をしている組織。網膜は10層になっており、それが全部はがれてしまうことを『網膜剥離』という。放っておくと失明に至る場合もある。剥離を起こす際に出血し、その血液が飛蚊症として見えることがある。

●ぶどう膜炎

 眼球の虹彩、毛様体、脈絡膜という部分をまとめて『ぶどう膜』という。ここで炎症が起きると、炎症細胞が網膜から硝子体のほうにも出てきたり、出血を起こしたりする。これが飛蚊症を起こす。さらに網膜のむくみにより視力低下を招く恐れがある。

●網膜裂孔(もうまくれっこう)

 網膜の一部が裂けて穴が開いたような状態になること。穴の蓋のように抜けた部分が硝子体の中を浮遊し、丸く見える飛蚊症を引き起こしたりする。穴の部分から炎症を起こして網膜剥離へと悪化することがある。

 飛蚊症を極度に恐れることはありませんが、病気の可能性があることも覚えておきましょう。次のページでは、飛蚊症について気を付けたいポイントについてさらにお聞きします。

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