総務省の調査※によると、家族の介護を理由に離職する人は年間で4万人(男性2万人・女性2万人)います。これは全体(222万人)の約0.2%にすぎませんが、何らかの手段を講じなければ少子高齢化社会の日本では今後ますます介護離職者が増えることが心配されます。厚生労働省では「介護離職ゼロ ポータルサイト」(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000112622.html#HID14)を立ち上げ、介護と仕事の両立で困ったときに利用できる制度や相談先などを掲載しています。これらは特に目新しい情報ではありませんが、知っていれば離職だけではない選択肢が増えるでしょう。
※総務省「労働力調査」(平成27年)より
1本人にできること〜可能なサービスや制度を最大限に利用する
なぜ離職しなければならないか
かつて2世代・3世代同居が当たり前だった時代には、たとえ家族の誰かが要介護になっても家族のなかで交代で支えることが普通のことでした。核家族化が進み世帯人数が減ると、おのずと夫婦間の老老介護や特定の子どもへの負担の集中が多くなりました。とは言え、平成12年には公的介護保険制度がスタートし、外部のサービスを利用できる機会は増えているはずです。それでも家族の介護のために「離職」を選択するのは、公的介護保険制度だけでは埋められないものがあるのでしょう。それはサービスの問題であったり、家族の中の問題であったり、人によって様々です。また、施設への入所を希望しても介護施設は待機期間が長すぎ、民間の有料老人ホームは費用がかかり過ぎ、結局は家族が介護することになったケースもあるでしょう。介護離職の背景は複雑なので一概に解決方法を求めることはできませんが、もし何らかのサービスを利用することにより離職を避けられるならば、それに越したことはありません。また、相談できる機関や利用できるサービスにはどんなものがあるか、知っているだけでも、介護と仕事の両立に向けて考え方は広がるはずです。
厚生労働省の取り組み
厚生労働省は「一億総活躍社会」の取り組みの一環として、「介護離職ゼロ ポータルサイト」を、省のホームページのなかに立ち上げました。介護離職の理由には職場の環境や介護する人の健康問題もありますが、「介護サービスの存在・内容を十分に知らなかった」という理由もあり、厚生労働省では介護に関する情報提供体制を整備し、介護が必要になったときに速やかにサービスの利用ができるよう、周知拡大を図ること目指しています。サイト内では介護保険制度のサービスや事業者の検索、手続きや介護休業制度などについて掲載しています。
サービスを利用する
【公的介護保険制度を利用できるならば】
家族が生活するうえで何らかの介護を必要としているならば、まず「公的介護保険制度」を利用することをお勧めします。公的介護保険制度は65歳以上(特定の疾病にかかっている人は40歳以上)の人が利用することができます。ただし、利用するためには要支援・要介護の認定を受け、どの程度の介護度(要支援1・2、要介護1〜要介護5)なのかを判断してもらう必要があります。認定を受けるためには、地域包括支援センター(くらしすと http://kurassist.jp/anshin/anshin11-1.html)か市区町村の窓口で相談します。公的介護保険制度には、居宅サービスと施設サービス、地域独自のサービスがありますので、要介護(支援)者の状況に応じて必要なサービスをうけます(ケアマネージャがケアプランをたてます)。
【介護が必要ない人】
「自立」(介護が必要ない状態)と判断された人でも、高齢になると思うようにいかなくなることや不便に感じることが出てきます。わざわざ家族が仕事を辞めてまで手助けするほどのことではないが、今後のことも考えると不安…という人はぜひ地域包括支援センターを訪ねてみてください。「自立」の人は公的介護保険制度のサービスを利用することはできませんが、どこの市区町村でも独自の生活支援サービスを展開しています。平成27年度から「介護予防・日常生活総合支援事業」(くらしすと http://kurassist.jp/anshin/anshin77-1.html)が導入され始めたこともあり、特に地域で高齢者を支えることに注力していますから、相談してみると良いでしょう。市区町村によるサービスに希望するサービスがなくても、民間サービスを紹介してくれることもあります。
相談機関を利用する
【介護サービスについて】
地域包括支援センターや市区町村の窓口を利用します。公的介護保険制度への連結だけではなく、その地域独自のサービスや介護予防事業、健康事業などを紹介してくれます。高齢者虐待問題についての相談にも応じています。
【法律上の案件について】
都道府県の労働局(雇用環境・均等部(室))を利用します。
労働上の相談や労働法、労災保険などについて職場での疑問を解決してくれます。
【職場のトラブルについて】
都道府県の労働局(雇用環境・均等部(室))を利用します。
相談の内容に応じて紛争解決援助制度、その他の法律上可能な対応案の説明や、法律の内容についての情報を提供してくれます。
介護休暇や雇用保険を利用する
勤務先の社内規定に「介護休暇」があれば、規定の範囲の日数を有給で休暇に充てることができます。もし規定になかったり、有給で取得できる日数を超えてしまった場合でも雇用保険から給付を受けることができます。企業が必ず加入する雇用保険のなかには、家族を介護するために休業して給料が一定額以上に下がった人や支払われない人に対して、「介護休業給付」があります。これは介護のために休まざるを得なかった人の生活を保障し、雇用を継続できるようにするための制度です。一定の条件を満たしている場合には「介護休業給付」の申請※ができます。
※申請は事業主が行う(介護休業終了後、終了日の翌日から2カ月を経過する日の属する末日まで)。
介護休業給付を受ける要件
○雇用保険に12カ月※以上加入している。
○介護のために休んだ期間の各1カ月の給料が休業開始前の1カ月の給料の8割に満たない。
○就業日数が1カ月のうち10日以下である。
※1カ月は給与支払いの対象となった日(勤務した日)が11日以上あることが条件。
【介護休業給付の介護の対象】
○配偶者
○父母(配偶者の父母も含める)
○子
○同居し扶養している祖父母、兄弟姉妹、孫
【介護休業給付の支払額】
介護休業給付の支払額(1カ月)は、原則として休業開始時賃金日額×支給日数×67%(平成28年8月1日以降)です。
介護休業給付の計算
・休業開始時賃金日額=介護休業開始前6カ月間の給与(賞与を除く)÷180(日)
※賃金日額上限額 15,620円 …平成28年8月現在
なお、給料と介護休業手当の合計が通常の給料(賃金月額)の80%を超える場合は、介護休業手当より超過分を差し引いた額が支払われます。
・支給日数=給付対象日数(上限は1回につき93日)
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① 本人にできること〜可能なサービスや制度を最大限に利用する