0 佐藤のり子先生

 年齢を重ねるにつれて増えてくる、足腰や肩、頸などの痛み。つらさを感じながらも、「年をとったから仕方ない」と我慢し続けていませんか。でも、その悩みは、痛みの専門外来「ペインクリニックで解消することができるかもしれません。

 痛みの専門医である佐藤のり子先生(亀戸佐藤のり子クリニック院長)は、「痛みは我慢してはいけません」と警鐘を鳴らします。私たちは、痛みをどう受け止めて、どう対処していけばよいのでしょうか。佐藤先生に、身体のさまざまな痛みとの付き合い方について話していただきました。

1「治療しているのに痛みが取れない」という人に

全身のあらゆる痛みを相談できる診療科

 「ペインクリニック」という言葉自体、聞いたことのない方も少なくないかもしれません。「ペイン=痛み」という言葉の通り、痛みに苦しむ人のための専門外来をペインクリニックといいます。首の痛み、腰痛、坐骨神経痛や、膝関節痛、股関節痛、五十肩などの関節痛をはじめ、片頭痛、肩こり、そしてがんによる痛みまで、広く痛みに関する診療をカバーしています。突然の痛みや慢性的な痛み、強い痛みから痛みの一種であるしびれまで、全身のあらゆる痛みの相談に乗ってくれる診療科がペインクリニックです。

 「どこかに腕をぶつけた」など、痛みの原因がわかっていれば該当する科を受診することができますが、直接的な理由がわからない痛みで診療科がはっきりしない場合はどうしたらいいでしょう。ペインクリニックは、そんなときに相談できる心強い存在です。たとえば、顔の痛み一つをとっても、ぼんやりと全体が痛むときもあれば、一部だけ(唇、歯茎など)が強く痛むときもあり、痛みの元を特定することが難しい場合もあります。ペインクリニックなら、そんな痛みも相談することができます。

 「痛みの原因がわからない、治療しているのに痛みが取れない、他の症状がないのに痛みだけが気になるといった場合には、一度ペインクリニック専門医を受診してみることをお勧めします。」(佐藤先生)

隠れた痛みの原因を探る

 ペインクリニックでは痛みを止める治療を施しますが、対症療法的にただ薬で痛みを抑え込むわけではなく、まず痛みの原因がどこにあるのかを診断して、治療をします。痛みが身体のどこから発しているのかということは、明らかなようで、実は自分でもわからないことがあります。前述した歯茎痛のケースでは、むし歯や歯周病ではなく、抜歯した際に神経を損傷して交感神経の緊張状態を引き起こしたために痛みが続いている場合もあるそうです。

 また、次のように痛みの原因が痛みを感じている部位とは違うところにあるケースも見受けられます。

■膝痛患者のケース

 膝の痛みを訴える患者。関節の動きをよくするためにヒアルロン酸の注入を受けていたが、改善しないために来院。膝を診察すると、関節自体に痛みを感じているわけではなく、膝関節のレントゲン所見も異常はない。腰からの神経の影響を疑いレントゲンを撮ると、腰に異常あり。腰にアプローチして治療を実施。

 痛みを伝えるのは、神経です。一つの神経は身体の広い領域をカバーしており、たとえば、下半身の神経は腰から脚までを支配しています。そのため、腰に問題があるのに、同じ神経が支配する膝の痛みとして知覚される場合があります。膝が痛いと感じると体を動かさなくなるので、本来の原因である慢性的な腰痛には気づかないこともあるそうです。

 ペインクリニックでは、①なぜ痛いのか原因を見つける、②痛みの原因を治療する、③痛みを止める、この三つを同時に併せて行います。

ブロック注射を中心に、さまざまな治療でアプローチ

 では、痛みの元を特定した後は、どのようにして痛みを抑えるのでしょうか。ペインクリニックで行われる治療には、主に次のようなものがあります。

神経ブロック(ブロック注射)

痛みの原因となっている神経の働きを鎮めていろいろな痛みを止める。また、血流を改善することで神経を回復させる。主に使用するのは局所麻酔薬。痛みの伝達を止める(ブロックする)とともに、血流を改善させ神経の炎症を鎮めて、痛みでこりかたまった筋肉を柔軟にし、痛みを止めることができる。

内服薬、外用薬

神経の炎症を抑えて腫れを引かせる消炎鎮痛薬、筋肉を緩める薬、痛みによる不安感を緩和する向精神薬、痛みの伝達物質を阻害する薬、神経障害性疼痛緩和薬、オピオイドなどを症状により組み合わせて処方。

レーザー

低出力レーザーを患部に照射。神経ブロックと同様に炎症を鎮め、腫れを鎮める効果がある(神経ブロックのほうが即効性は高い)。注射することが少ない関節リウマチの手指関節痛には特に有効。

生活指導

入浴で血液の循環をよくして筋肉をほぐすなど、生活を工夫することで痛みを抑える。

装具

コルセットなど、補助器具を用いて痛みが出ないよう姿勢をコントロールする。

 多くのケースでは、強い痛みを止める即効性のある神経ブロックを軸に、本人の症状や希望に沿って方針を立て、治療を行います。ペースメーカーを装着している人、局所麻酔剤のアレルギーを持った人、血が止まりづらい人には神経ブロックは禁忌となるため、他の治療法がとられます。また、注射が嫌いでレーザーなどを選ぶ人もいますが、神経ブロックには大きなメリットがあると佐藤先生はいいます。

 「神経ブロックは、手術(観血的治療)せずに原因を治すことを目的とした積極的な保存的治療です。『ブロック』というと感覚を遮断してしまう怖い薬のように感じられるかもしれませんが、神経ブロックは神経の炎症による腫脹を血流改善することで緩和して鎮めることが目的で、神経をまひさせてしまうわけではありませんし、麻酔でもありません。また、局部的に働くため、一般の痛み止めのように肝臓や腎臓に負担をかけることも、依存性の心配もなく、疼痛のための内服薬を減らすことができて高齢の方にも受けていただける治療です。」(佐藤先生)

手術か、神経ブロックか?

 このほか、整形外科分野の痛みの効果的な治療法としては、手術があります。「日本では、たとえば膝関節と股関節の人工関節の技術は素晴らしいものがあるので、手術を受けるメリットは大きいでしょう。体力があるうちに手術を受ければ早いうちに復帰できますから、原因がはっきりしている場合、私は整形外科の専門医として整形外科での手術をお勧めしています。」(佐藤先生)

 一方、脊椎や頸椎などが原因の、より手術が難しいケースでは、ペインクリニックと整形外科など他の診療科を上手に組み合わせた治療が大切だと佐藤先生は話します。

 「手術(痛みの根本原因を切除して痛みを取るか)か、ペインクリニック(保存的に痛みを止める)か、どちらがよいのかは一概にいえるものではありませんが、高齢の方にはペインクリニックでの治療の有益性が高いといえます。手術後、痛みの原因が悪化することはありませんが、大きな手術を受けてせっかく治しても、安静期間が長引けば、場合によっては筋力が落ちて歩けなくなり、認知症を発症するリスクがあるからです。また、手術による神経周囲の癒着や瘢痕も起こり、これらが新たな疼痛の原因になることもあります。

 脊椎の手術は『機械が壊れて部品を交換すれば治る』というようなものではなく、手術ですべてが解決するものではありません。症状や年齢などの諸条件の見極めが肝心です。手術のよいところと悪いところとを担当の先生によく説明を受けるべきです。

 神経ブロックは治療を兼ねた痛みを取る方法で、積極的な保存療法です。手術を受ける前に試みてみる価値があるでしょう。適切な診療を受けるには、専門医を訪ねるのが一番です。日本ペインクリニック学会のサイトに全国の専門医が掲載されていますので、痛みでお悩みの方はお近くの専門医を探していただきたいと思います。」(佐藤先生)

日本ペインクリニック学会 ウェブサイト
「学会専門医一覧」は こちら

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