2「もしも」のときのための国民年金
2年の時効を過ぎれば納められない
国民年金保険料の納め忘れについて注意が必要なのは、2年の時効があることです。一般的に納付期限は対象月の翌月末日まで(例えば、5月分なら6月30日まで)ですが、さらにこの期限から2年間は納めることが可能です。しかし、これを過ぎると納めることができなくなり、未納が確定してしまいます。
ここで「未納期間が長いから老齢基礎年金(65歳から支給)の受給は無理」だとあきらめる前に、次のような方法があります。まず現在は、特例として過去5年間の保険料を納めることができる「後納制度」があります。年金事務所に申込書を提出して審査を受けたうえで、時効になった3〜5年前の保険料を納めることができるようになります。これは平成30年9月までの時限措置なので、お早めに対応を。
また、確定した未納期間を後から埋めることはできませんが、本来60歳までとされている加入期間を延長することは可能です。①25年の受給資格期間を満たしていない場合と、②40年の満額の年金を受けられない場合に「任意加入」が可能で、60〜65歳まで保険料を納めることができます(①の場合、昭和40年4月1日以前生まれであれば70歳まで)。あくまでも「任意」なので、いつでも自由にやめることができます。加入可能な期間の合計は40年までで、これを満たした時点で加入資格を失います。
「現在のリスクへの備え」になる免除申請
経済的な理由で保険料が納められない場合、十分な収入がない場合は、「保険料免除」「納付猶予」に該当するかもしれません。保険料を納めないという点では同じでも、未納と免除・猶予とでは大きな違いが生じるので、ぜひ年金事務所に相談して、可能であれば申請をしてください。
免除・猶予のしくみの最大のメリットは、その期間が基礎年金の受給資格期間にカウントされること(図2)。「将来への備え」である「老齢基礎年金」であれば、これからの期間で多少の未納は何とかカバーできるかもしれませんが、障害が残ったときの「障害基礎年金」と、亡くなったときに遺族に支給される「遺族基礎年金」の場合、事故や死亡の予測はつかないため、「現在のリスクへの備え」として今すぐにでも対応することが求められます。免除・猶予申請は「もしも」のときの備えだと考え、未納をそのままにしないようにすることが大切です。
障害基礎年金、遺族基礎年金を受けるためには、それまでの国民年金加入期間のうち3分の2以上の期間で保険料を納めている、もしくは免除・猶予を受けていることが必要です。突然の事故に遭って「必要な期間が足りなかった」と後悔することのないようにしたいものです。
図2 免除・猶予期間の扱い
老齢基礎年金 |
障害基礎年金 遺族基礎年金 |
||
---|---|---|---|
受給資格期間への算入 | 年金額への反映 | 受給資格期間への算入 | |
・納付 | ○ | ○ | ○ |
・全額免除 | ○ | ○ | ○ |
・一部納付 | ○ | ○ | ○ |
・若年者納付猶予 ・学生納付特例 |
○ | × | ○ |
・未納 | × | × | × |
〈日本年金機構 ウェブサイトより作成〉
保険料免除、納付猶予とは?
「保険料免除」「納付猶予」には、前年の所得に応じて図3左欄のようなものがあり、いずれも年金事務所で申請する必要があります。②〜④では保険料の一部が免除されます(残りの部分を納付する)。また、⑤は30歳未満、⑥は学生が対象で、保険料の納付が猶予されます。
この期間が老齢基礎年金の年金額に反映されるかどうか、またどのように反映されるかは、それぞれ異なります(図2)。①〜④の期間は年金額に反映され、保険料を全額納付した場合に対して①2分の1、②8分の5、③8分の6、④8分の7の額を受けることができます。一方、⑤、⑥の期間は、年金額に反映されることはありません。ただし、免除・猶予された保険料(一部保険料)を10年以内に納付(追納)すれば、すべての場合で全額受けることができるようになります。
図3 保険料免除・納付猶予の所得の基準
免除・猶予の種類 | 前年所得 |
---|---|
①全額免除 | (扶養親族等の人数+1)×35万円+22万円 |
②4分の3免除(4分の1納付) | 78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
③半額免除(半額納付) | 118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
④4分の1免除(4分の3納付) | 158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
⑤若年者納付猶予制度 | (扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 |
⑥学生納付特例 | 118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
〈日本年金機構 ウェブサイトより作成〉
国民年金のメリットを考えてみる
最後に国民年金のメリットを見てみましょう(図4)。社会構造の変化によって国民年金に問題が生じていることは確かですが、国が運営しているからこそのメリットがあることに変わりはありません。
特に、①給付額のスライド(年金価値低下のリスクへの備え)、②死亡まで給付(長生きのリスクへの備え)、③障害・遺族年金(障害のリスク、残された遺族への所得補填の備え)はポイントです。例えば、②の場合、長生きはそれ自体めでたいことであっても、「寿命を予測できない」という不確定要素を考えれば、経済的なリスクの1つだといえます。「加入は義務で、国民全体で支えていかなければならない」という理念はもちろん大切ですが、より切実に自ら人生のリスクに備える1つの方法として国民年金を考えてみることもできるのではないでしょうか。
図4 国民年金のメリット
メリット1 | 賃金や物価に応じて給付額をスライド |
---|---|
メリット2 | 受給権者が亡くなるまで年金を支給 |
メリット3 | 万一の場合の障害・遺族年金も支給 |
メリット4 | 給付費などに対する国庫負担が行われる |
メリット5 | 支払った保険料は税制上、所得から全額控除 |
〈日本年金機構 ウェブサイトより作成〉
-
② 「もしも」のときのための国民年金