2会話が高齢者の自己認識を高める
話す機会が少ないという高齢者に
では、会話型見守りサービスは、私たち利用者のどのようなニーズに応えてくれるのでしょうか。このサービスの射程とその効果について、引き続き、株式会社こころみの神山さんに伺います。
どのようなニーズに応えるのか
「つながりプラス」に最適なのは、離れて暮らす高齢の親を持つ子どもで、「遠くに住んでいて(仕事が忙しくて)なかなか会いに行けない」「電話をかけるにも、海外にいて時差で難しい」などの理由で親の日常生活が気になっているケースです。
見守りサービスであるため、対象となるのは基本的に自立した高齢者です。また、緊急事態への対応を目的としていないことにも注意が必要です。その一方で"会話を主体とする見守りサービス"という性格上、「特に、『一人暮らしの親の話し相手がいないようで心配』『夫婦二人暮らしだけど外の人とあまり接していないことが気にかかる』『老人ホームに入っている親が孤独を感じていないか気になる』などと心配されているお子さんにはおすすめです。」(神山さん)
親のことを考えるきっかけが増える
現在の利用者は、比較的元気で自立した生活を送っている人がほとんどですが、「配偶者に先立たれて一人暮らしになった」「近所に知り合いがいない」、あるいは「だんだん知り合いが少なくなり会話をする機会が少なくなっている」といった方も多いそうです。会話を重視するこのサービスを利用することによって、利用者にどのような変化が生じるのでしょうか。
「お子さんからは、『以前より電話する回数が増えた』といったメールが届いています。見守りといっても人任せになるわけではなく、むしろ親のことを気にかける機会が増えることになるわけです。一方、親御さんからも、『このサービスを利用し始めてから日々の生活が少し新鮮になった』『毎日の生活に積極的になった』という声をいただいています。会話によって生活に張りが生まれることがわかります。」(神山さん)
利用者の声
【親(見守られる側)】
「家族ではないからこそ、なんでも遠慮なく話ができるのがうれしいです。毎日の生活に張りが生まれるように思います。最近は、次の電話で何を話そうと、普段の生活の中でネタを探すようにもなりました。日々の生活が少し新鮮になったように思います。」(70代女性)
【子(見守る側)】
「風邪をひいた、最近始めた趣味、そんな話を共有できるんです。話をするきっかけができて、以前より電話する回数が増えました。」(40代女性)
「以前は父に対して話が噛み合わずいらだつことがありましたが、最近は話をするときに、親のことをよく知ったうえでコミュニケーションができるようになりました。」(40代男性)
会話から生まれるさまざまな効果
親子のコミュニケーションを支援
このようなサービスは、「見守り」という本来の目的を超えて、さまざまな効果をもたらすと神山さんは考えています。神山さんが強調するのは親子関係の変化です。
「親御さんには、お子さんに心配をかけたくないとの思いから隠していることもあるんですね。しかし、サービスの担当者は第三者ですから、ご家族には伝えにくい悩みや病気などについてもお話しいただいています。それを聞き書きレポートでお子さんに伝えますから、お子さんからは『親のことがわかるようになった』という声を聞きます。実際に、親御さんに連絡をしたり、家を訪ねる回数も増えているようです。
これをきっかけに親子の関係がより円滑になるということが、実は『つながりプラス』の最大の価値であると考えています。『見守りサービス』と表現していますが、その枠を超えて、親子のコミュニケーションの支援サービスであり、親御さんを元気にする支援サービスでもあると思っています。」
"近所のおせっかい焼き"の役割
親子関係とこのサービスについて、神山さんは次のようにも話します。
「そもそも親子関係というのは、いつの時代もギクシャクしがちなもので、昔から"何でも話せる"という関係はあまりなかったのではないでしょうか。かつては、例えば、"近所のおばちゃん"が間に割って入っておせっかいを焼いたり、心配したりして仲を取り持ってくれていたわけです。このサービスは"近所のおばちゃん"が親と井戸端で交わした話をその子どもに伝えるようなものということもできます。私たちはお子さんの代わりをするわけではありません。見守りをしながら親子間のコミュニケーションをアシストする、媒介者的なサービスなのです。」
会話が元気を引き出す
一方、親のほうの変化については、「生活に張りが生まれた」「積極的になった」といった前向きなコメントが多く見られるといいます。「人は一人で生きているわけではなく、常に誰かから認めてもらいたいと思っています。電話で話したいことを話し、それを聞いてもらうことによって、他人から認められていると感じることができ、自己認識が高まります。そのことが、親御さんの元気を引き出し、前向きな気持ちにつながるのでしょう」と神山さんは語ります。
また、「つながりプラス」では、コミュニケーターの傾聴の姿勢にも特徴があり、「近すぎず、遠すぎず」という適切な距離感が重要だといいます。「電話をかけるコミュニケーターは、親御さんにしてみれば友達や話し相手のようなものに感じられるかもしれませんが、あくまでも専門家として利用者の方のお話に耳を傾け、会話を進めていきます。励ましたり、褒めたり、何か行動を促したりすることはありません。私たちが上から評価をする立場にはないからです。同じ立場に立って、常に利用者の方の気持ちに寄り添う会話をします。」
大切な親子の"パイプづくり"
2014年2月に開始された「つながりプラス」は現在、契約の継続(更新)率が98.3%と高い数値を示しています。「この数値の高さから、社会的に必要とされているサービスなのだと感じています」(神山さん)。今後は、例えば、マンションの管理会社などと提携してマンションの管理サービスの一環としてこのサービスを提供するなど、より多くの人が利用できる機会を広げていきたいと考えているそうです。
サービスの提供を行うなかで、高齢になった親とその子どものライフスタイルを注視してきた神山さん。最後に、離れて暮らす親のケアを考えるうえでのアドバイスをお話しいただきました。「"もしもの時"に備えて、常日頃、子どものほうから親とコミュニケーションをとるためのパイプをつくっておくことが必要だと思います。例えば、定期的に孫の写真を送るとか、出張に行くたびに何かお土産物を送るなど、何でもよいのです。できるだけ多くのパイプをつくっていれば、親が何かに困ったときに気軽に子どもに連絡できるようになるなど、情報が入る環境が自然と整っていくものなのだと思っています。私たちも、『つながりプラス』を通じてそのお手伝いをしたいと考えています。」
「つながりプラス」公式ウェブサイト
http://tsunagariplus.cocolomi.net/
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