2大切なのは、どう生ききるか
元気なうちから考えておきたいこと
人生の最終段階を迎えて、治療方針や生き方を即座に決定できるものでしょうか。医療の現場では、そういった局面に立った患者さんは迷い、揺れ動くものだそうです。健康で冷静なうちに、どんな人生を全うしたいのかを整理しておくことが非常に大切です。
「たとえば、救急で来られて意識がなく、回復は難しいと思われる容体の患者さんの場合、医師から延命措置などを含めてご家族に意向をお聞きします。でも、ご本人の意思がわからない状況のなかで判断するには重圧がのしかかりますし、後悔したくない問題ですから、ご家族は慌てます。このようなことを避けるためにも、意思表示ができるうちから考えておいていただきたいですね。
前にお話ししたガイドラインに『患者と医療従事者が十分に話し合い、患者さんが意思決定を行い、その合意内容は文書にまとめておく』という内容が盛り込まれているものの、まだまだ浸透していないのが実情です。『延命治療は是か否か?』というような論議もありますが、まずは患者さんの意思を尊重することが基本だと思います。
もしものときにはどうするのか、この決定は他人にゆだねるものではないと思います。人生の最終段階において、ご自身が受けたい医療、受けたくない医療などについて今のうちから少しでも考えておくと良いですね。運転免許証裏の臓器提供に関する意思表示の欄をはじめ、"リビングウィル"(生前の希望事項)表明のための定型のシートには、病院作成のものや市販のものなど、さまざまなものがあります。」(川本さん)
考えておきませんか?
<人生の最終段階における医療のための意思表示の項目例>
①基本的な希望 |
●痛みや苦痛について | □できるだけ抑えてほしい □必要なら鎮痛剤を使ってもよい □自然のままでいたい |
●人生の最終段階を迎える場として希望するのは… | □病院 □自宅 □施設 □そのほか |
●その他の希望は? |
②生命維持を行わなければ比較的短い期間で死に至るであろう、不治で回復困難な状況になったとき |
●心臓マッサージなどの心配蘇生を… | □してほしい | □してほしくない |
●延命のための人工呼吸器を………… | □つけてほしい | □つけてほしくない |
●抗生物質の強力な使用を…………… | □してほしい | □してほしくない |
●胃ろうによる栄養補給を…………… | □してほしい | □してほしくない |
※「胃ろうによる栄養補給」とは、流動食を腹部から胃に直接通したチューブで送り込むこと |
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●鼻チューブによる栄養補給を……… | □してほしい | □してほしくない |
●点滴による水分の補給を…………… | □してほしい | □してほしくない |
●その他の希望は? |
③自身で希望する医療の判断ができなくなったとき、意思決定を代わってしてほしいのは誰? |
※参考:国立長寿医療研究センター「事前指示書」
"人生の質"の価値観は人それぞれ
ガイドラインには、患者さんは医療従事者から情報提供を受け、話し合いを行い、患者さん本人による決定を基本としたうえで医療が進められるのが原則とされていました。しかし、患者さんと距離が近い看護師は患者さんの本音を聞かされることも多く、医師との間に入ることも少なくないそうです。
「医師が医療に必要と思うことと患者さんが希望することに違いが出ることもあります。『医師から説明を受けたが難しくてわからなかった』『質問したいことがあるけれど切り出せない』など医師の前では思ったことをなかなか言い出せない患者さんもいらっしゃるので、両者の橋渡しをするのも看護師の役目です。たとえば、経済的な負担などもあり、患者さんは手術を受けたくないとお思いになったとします。でも医師は治療上の知識から、手術をすれば救命または延命できるかもしれないという場合は手術を勧めます。医師は、患者さんのニーズを読み取るというよりはどのような治療が可能かというスタンスですので、両者に温度差があった場合、意に沿わないということになってしまう可能性もあるわけです。そのときは看護師が医師の言葉をわかりやすく患者さんに伝えたり、患者さんの気持ちを医師に伝えたりします。患者さんの数だけ対応があり、私たちは、その場面に応じて、患者さんに寄り添ったサポートを行うよう努めています。」(川本さん)
在宅看取りの時代に向かって
冒頭でも触れたように、病によらず、歳を重ねて自然に"人生の最終段階"を迎える方もいらっしゃいます。超高齢社会となった日本では、これから先、加速度的に亡くなる人が増えていきます。来るべき「多死社会」に直面し、考えなくてはならない課題があります。最期を迎える場所について、現在は病院や介護施設などで亡くなる方が大半ですが、今後、施設で最期を迎えることは難しくなっていくと言われています。どこで最期を過ごすのかをまず決めなくてはなりません。実は現段階でも6割以上の方が自宅での療養を希望しているという調査データがあります※1。これからは自宅での看取りが増えることが見込まれます。しかし、それぞれの希望に寄り添ったサポートを行うためにサービスは十分ではないのが実情です。また、看取る側の家族の負担が大きいことも課題です。
※1参照:平成19年度 内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」
** 川本さんの一言メモ **
「ご自宅での看取りを含め、住み慣れた地域で最後までどう生きるかをサポートするため、日本看護協会としては訪問看護や看護小規模多機能居宅介護(看多機:かんたき)を推進しています※2。これらを利用していただくことで、必要とする方のご自宅に出向き、ご家族に見守られながら最期を迎えることができます。海外と比較すると最後を迎える場所として病院の占める割合が高い日本では、ご自宅など病院以外の場所での看取りに不安な人もいらっしゃるでしょうから、自然な死がどのような経過をたどるのか、ご家族に丁寧にお伝えすることも必要と考えています。サポートする医師や看護師がいれば住み慣れた地域での看取りも可能ですので、訪問看護や看多機をご利用いただきたいと思います」。
※2参照:テレビ特別番組「看護の心をみんなの心に〜暮らしを支える看護師たち〜」
http://www.nurse.or.jp/home/event/simin/tokuban/index.html
"おひとりさま"も自宅で最期を迎えられる
最近では、訪問看護などを利用して医療チームの見守りを受け、相談に乗ってもらいながら闘病することができます。必要に応じて福祉系のサービスや一般のサービスなどを利用すれば、一人暮らしの自宅で最期を迎えることも可能です。
「最期は誰に看取られたいのかなどの希望を、できる限り尊重します。看護師は患者さんに寄り添いながら、考えていくという役割を持っていますので。桜を見たいとか、身内の結婚式に出たいなど、どんな希望でも伝えていただければと思います。」(川本さん)
いざというときに慌てないための第一歩として、『自分にとって最期まで自分らしく生きるとはどういうことか? どのような毎日を過ごして、どんな死を迎えたいのか?』ということについて日ごろから考え、ご家族の方や身近な方と対話し、意識を高めておきたいものです。そして、まず取り組めるのは、できるだけ健康に生きていくということ。そのためには日々どんな生活をするのかも大事な意味をもってきます。これも生き方の一部といえるでしょう。
「とはいえ、望んで病気になる方はいらっしゃいません。もし病気にかかってしまったときは、医師・看護師を含めた多職種のチームで、その方に合わせたさまざまなケアを提供します。その中でも看護師は全人的なケアを通して患者さんに寄り添い、希望に沿った看護を行いますので、みなさま看護師を頼っていただけたらと思います」。(川本さん)
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② 大切なのは、どう生ききるか