HOME ≫ トピックス ≫ 好評連載『飽くなき者たち』を語る 〜時代の変化を映す役者の生き様を巡って〜 ≫ ② 「飽くなき者たち」とは「老後の初心を忘れぬ者たち」

好評連載『飽くなき者たち』を語る
〜時代の変化を映す役者の生き様を巡って〜
老境に入った役者の「いま」を読み解く

編集者 この連載のタイトルを『飽くなき者たち』としたことについては、どのような思いが込められているのでしょうか。


執筆者 「初心忘るべからず」という言葉がありますね。この「初心」を「初志」とか「原点」と解釈して、「始めた頃の気持ちを忘れないように」というふうに使われることが多いんですが、元は室町時代に能を大成した世阿弥が書いた芸能論集の『花鏡』にある言葉なんですよ。これを読むと、初心というのが三つ出てくるんですね。まず、「是非の初心忘るべからず」。これは若いときのことを言っているんですが、そのあとに「時々(じじ)の初心忘るべからず」、そして最後に「老後の初心忘るべからず」と来るんです。
 「時々の初心」というのは、壮年期・中年期ですね、そこにも初心があるということです。中年期にも初志を思い出せ、原点に帰れ、というわけではない。中年期には中年期になったからこそ挑むべき新しい壁とか新境地があるのだと言っているんです。となると、「老後の初心」というのは、老年期には老年期になったからこそ挑むべき初心というものがあるという意味なんですね。これは本当はもっと難しい奥深い話なんですが、ざっくり言ってしまうと、若いときは初めてのことばっかりだが、壮年期・中年期には若いときのことを踏まえて、老年期には若いときと壮年期・中年期を踏まえて、そこでまた新たな挑戦をしなさいということが初心だと、そういうようなことを言っているところがあります。
 そう世阿弥が書いている。『花鏡』とか『風姿花伝』とかで、能の世界について徹底的に芸はどう磨くかっていうことを書いている人です。古典というのは、やっぱり優れているから残っていて、読まれ継がれているんですよね。俳優と呼ばれる人というのは、言ってみれば、芸の世界で生きてきた人間の末裔です。だから、この連載を書くにあたっては、こうした先人の確固たる考えみたいなものを軸に置こうと。それで、「初心忘るべからず」から「いまに飽き足らず挑戦し続ける者たち」という視点で老俳優たちを語っていこうと思い、『飽くなき者たち』というタイトルをつけてみたわけです。


編集者 なるほど、そんな深い高尚な理由があったんですね(笑)。


執筆者 最初に企画意図を聞いたときに、「高齢者、いつまでもお元気に」とか「ずっと輝いて」みたいな薄っぺらなものにはしたくないなと思いました。先ほど「ちょっとヨソでは見かけない役者論」とおっしゃっていただきましたが、実際に連載開始前にいろいろと調べてみたところ、いわゆる作品紹介とかフィルモグラフィー紹介みたいなものしかない。こういう視点で突っ込んで書かれているものはどうもそんなにあるわけじゃないなと。さっき申し上げた「切り口」という問題、それから原稿用紙3枚という分量、そして過去を論じるのではなく、いま生きていて近年に出演作があり、論じうる演技をしている者、そういうさまざまな制約がありますが、迷ったら「初心忘るべからず」という軸に戻ろうという考えで書いています。

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