

自宅で暮らし続けるための住まいの整備

家具の色替えも「住まいの整備」の1つ
冒頭で、『住まいを視覚の衰えにきちっと対応した環境にしていくことが、安全な住まいということではとても大切なことだ』とお話ししました。それでは、視覚的にどのような工夫や対応ができるか、少しご紹介します。
【写真3】

たとえば、床が白っぽいうえにテーブルも白っぽいと何となくわかりにくくないですか。でも、床が白ならテーブルを濃い色に、逆に黒い床に白いテーブル、とメリハリをつけるとわかりやすくなります(写真3)。転びそうな時にパッと手をつくとか、瞬間的にそういうことがはっきりわかるというのは、すごく大事なことだと思います。カーペットを替える時やテーブルを買う時に、こういったことも少し考えていただきたいと思います。
赤色は識別しやすい
私たちの目は、先ほども言ったように、高齢になると黒とか紺色とか茶色とか、こういった色はどれがどれだかよくわからなくなります。そうすると、階段もどこが段になっているかが非常にわかりにくいですよね。特に、下がる時は危ないのです。そこで、写真4のように、踏み板の縁のところに黒いゴムの滑り止めを付けてみました。これがなければ、上から見た時に非常にわかりにくいです(右の写真)。
【写真4】
【写真5】

写真5は、赤を用いた浴室の改修例です。赤はわりと長く違いがわかります。この例の方は、目が悪いというより、脳のどこかが悪く、見えない見えないとおっしゃいます。でも、リハビリの先生が白い運動靴に赤いリボンを付けているのを、すごくよく見えるとおっしゃったのです。私はそれを聞いて、この方にははっきりとした赤の色を入れればいいのではないかと思ったわけです。パーキンソン病の方は目印があると、そこまでパッと歩いていくという話です。パーキンソン病の方ではないけれど、床面にも赤いラインを入れてみました。
浴槽の縁も足を上げなければいけませんよね。どれぐらい上げるかは、ちゃんと見えていればまたぎやすいです。ですから、縁にも赤を入れました。手すりも市販されている赤色の手すりを使いました。シャワーのホルダーについては赤色のものがなかったのです。そうしたら、やはり見えないとおっしゃるので、娘さんがこのように赤いテープを巻いたら、見えるということでした。
賢い発注者が建築士を育てる
私も90歳近い母を外に連れ出した時に、「あそこのエレベーターに行きましょう」と言ったら、「どこにエレベーターがあるのか」と言うのです。そこは床も壁も白っぽかったんですね。エレベーターのドアも白い。私の目から見れば、少し光って、素材が違うので、はっきりわかりましたが、母には見えなかったのです。
赤坂プリンスホテルというホテルがありましたね。 数年前に壊してしまいましたが、あそこもロビーが真っ白の大理石で、そこから下がる階段のところも、やはり白の大理石でした。そこに大きく「階段ですから危ないので注意してください」というような注意書きが書いてありました。このホテルは大変著名な方が設計したものなのですが、私は建築をやる人間というのはそういうことも知っていて、「危ない」などと書かずに、だれが行っても危なくないようなものをつくるということが大事だと思います。
そういうことを踏まえて、色のコントロールまでちゃんとするのが私たちプロフェッショナルの役だと思いますが、残念ながら、まだそこまでは至っていません。ですから、発注する側が賢くなって建築士を教育してほしいと思うのです。皆さま方から、こんなことではダメではないですかと言っていただきたいと思うわけです。
