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連載−飽くなき者たち−
飽くなき者たち−円熟の輝きを放つ名優の軌跡−
第47回 いしだあゆみの薄幸という至芸
掲載:2018年7月13日
いしだあゆみ

 『ホームレス中学生』(2008年)は、一家離散して公園で暮らすはめになった主人公(小池徹平)と、彼を支援する町内の人々との交流を描く物語である。この作品でいしだあゆみは主人公の世話を焼く民生委員を演じていて、これがなかなかのはまり役だ。過去の労苦を説明する映像や台詞がなくとも、おそらく彼女は相当の苦労人で、他人の痛みが痛いほどよくわかり、それゆえに民生委員をしているのだろうな、と自然に思えてくる。途中で急逝するのも妙にリアルで、"いい人ほど早く亡くなる"を地でいく説得力がある。
 
 いしだと言えば、『駅 STATION』(1981年)の冒頭で、泣き笑いで敬礼しながら列車で去っていく場面があまりにも有名だが、このシーンに代表される幸薄いイメージは、往年の彼女の役柄が不幸と辛酸に満ちていたことと無縁ではあるまい。
 『積木くずし』(1983年)ではグレた娘(渡辺典子)と浮気夫(藤田まこと)に苛まれ、『夜叉』(1985年)では夫である高倉健を田中裕子に寝取られ、『火宅の人』(1986年)では緒形拳を松坂慶子に奪われるなど、とにかく男運がよろしくない。『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』(1982年)のマドンナ役も、寅さんが片思いで空回りするいつものパターンではなく、相思相愛なのに結局は結ばれない悲恋になっていた。好きになる男の職業が、俳優、元やくざ、作家、テキ屋と、カタいものがひとつとしてないのも特徴だ。不幸が似合うから不幸な役がくる。期待に応えていい仕事をするからまた不幸な役がくる。それが女優・いしだあゆみの幸福だったに違いない。
 連続通り魔殺人事件の犯人を挙げるために、同棲中の荒くれ刑事(緒形拳)に頼み込まれて囮にされる『野獣刑事』(1982年)の悲惨さも忘れがたい。いくら捜査のためとはいえ、平気で自分の女を危険にさらす緒形は題名通りのケダモノなのだが、そんな非道い男を好きになってしまうところが実に彼女らしい。やくざな男に惹かれる女の哀しみと躊躇いと健気さを、いしだは体当たりかつ繊細な芝居で見事に表現している。
 
 近作『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(2014年)のいしだは、団地の狭いダイニングになぜか中華の円卓がある8人家族の祖母役を務めている。夫が平幹二朗、息子夫婦は八嶋智人と羽野晶紀、孫は青山美郷(三つ子役)と芦田愛菜で、この顔ぶれの家庭劇で誰かが嫉妬に狂ったり殺されたりするはずもなく、いしだのこれまでの出演作に比べるとほぼ何も起こらないに等しいストーリーである。
 大家族で円卓を囲んで食事をするいしだの、憑き物が落ちたような柔らかい表情を観ていると、こちらの勝手な妄想ながら、「あんた、いろいろあったけどよかったね」と声をかけたくなってくる。「なんか幸せそうでホッとしたよ」と言ってあげたい気分になってくる。不幸なイメージを重ねてきた女優の晩年の笑顔には、たとえそれが平凡な笑顔であっても、また格別の味わいがある。

次回は「藤田弓子」を予定しています。

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