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連載−飽くなき者たち−
飽くなき者たち−円熟の輝きを放つ名優の軌跡−
第34回 平田満の見守る父性
掲載:2017年6月15日
平田満

 『蒲田行進曲』(1982年)は、風間杜夫だけでなく、平田満という役者まで世に送り出した稀有な作品だ。平田が演じたヤス役は、万年大部屋俳優のさえない男である。だが、つかこうへいと深作欣二は、この人物をあえて主役に据え、映画への強い愛と敬意を込めて、ふだん日の当たらない"その他大勢"の矜持と生き様を描こうとした。そしてこの大役を、当時は役柄そのままの無名俳優であった平田に託し、平田もまたその期待に大熱演で応えてみせた。

 本作でスクリーンいっぱいに走り回り、飛び回り、のたうち回る平田の姿はあまりにも強烈で、その後長い間、彼はこの役のイメージを引きずることになる。20年後、平田は『GO』(2001年)で主人公の母親(大竹しのぶ)にいきなり「ヤス!」と声をかけられる本人役を演じているが、少なくともその頃まで、世間一般にはこの母親のような感覚が残っていたのではないだろうか。
 近年ではそういった印象もようやく薄まり、平田は幅広い役柄を演じる名脇役として、その地位を確かなものにしている。数多くのドラマや舞台と並行して、映画だけでもこの10年間で30数本というのはかなりの仕事量である。

 平田の脇役は、一歩二歩どころか、三歩も四歩も下がったところから作品を支えることが多い。むやみに個性は主張せず、声量も抑えめで、物語や画面の邪魔はしない。それでいて確かな存在感はある。
 たとえば、『孤高のメス』(2010年)の院長役のように、脇役陣の中で柄本明や矢島健一が前に出ていくのならば自分は引いてバランスを取る。
 『わさお』(2010年)では海辺で売店を営む柔和な父親をそっと演じて、十数年ぶりに主演を務める薬師丸ひろ子の引き立て役に徹する。『臨場 劇場版』(2012年)の無実の罪で息子を失った警官役のように、物語の主軸に絡んで個性を出すこともないわけではないが、やはり圧倒的に多いのは、主人公を遠くから温かく見守る父親や父親的役柄だ。
 『FLOWERS フラワーズ』(2010年)の愛妻と死に別れた父親、『四日間の奇蹟』(2005年)の療養施設の所長、『おと・な・り』(2009年)の事務所の社長など、少し離れた位置から主人公を見守り、ときには励ます役をやらせたら、平田は滋味あふれる実にいい芝居を見せてくれる。『ズタボロ』(2015年)の喧嘩に明け暮れる主人公の叔父役も、ゴルフクラブで人の顔をメッタ打ちにするような冷酷なヤクザの組長でありながら、甥っ子に注がれる眼差しにはどこか父性の温もりが感じられる。

 ストリッパーの娘を持つ父親役で主演した『ソウル・フラワー・トレイン』(2013年)はその集大成である。いくら"見守り励ます父"が平田の十八番とはいえ、タイトル通りの大胆な舞台芸を披露する娘を励ます彼に、正直驚いた人もいたかもしれない。だが、この配役は、かつて平田が出演した日活ロマンポルノ『蕾の眺め』(脚本/早坂暁・監督/田中登・1986年)へのオマージュと捉えるべきだろう。ひとりの踊り子(今陽子)への熱狂が高じて、やがて相手役として舞台に上がるようになる男を、泣き笑いで演じきった平田にこそ、この父親役はふさわしい。世代を越えて、ここにも映画への愛と敬意は脈打っている。

次回は「石坂浩二」を予定しています。

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