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連載−飽くなき者たち−
飽くなき者たち−円熟の輝きを放つ名優の軌跡−
第33回 風間杜夫は胡散臭さの達人である女
掲載:2017年5月15日
風間杜夫

 風間杜夫の出世作となった『蒲田行進曲』(1982年)のスター俳優・銀四郎役は、自分の子を身ごもった女(松坂慶子)を子分格のヤス(平田満)に押しつけるような非道い男だ。だがその一方で、嫉妬や涙を隠さない子供のような正直さや人情家の一面もあって、憎みきれない男でもある。人間の矛盾を丸ごと飲み込んだようなこのキャラクターを、つかこうへいと深作欣二は風間に演じさせ、十二分に彼の魅力を引き出してみせた。その慧眼と手腕には改めて唸らされる。

 この銀四郎という役柄の中には、役者・風間杜夫の資質が凝縮されていると思う。
 まず、濡れ場もこなせてシリアスな芝居もできる二枚目の顔である。『異人たちとの夏』(1988年)で演じた、彼岸の世界に棲む若き日の父母(片岡鶴太郎と秋吉久美子)に魅入られていく脚本家役がその代表作だろう。『陽暉楼』(1983年)で演じた浅野温子の相手役も正統派の二枚目だった。
 もうひとつは、テンポのいい台詞と絶妙な間合いで魅せるコミカルな三枚目の顔である。近作では、『椿三十郎』(2007年)での、謀略に加わったものの終始オロオロしっぱなしの小悪党ぶりや、『初夜と蓮根』(2012年)の父親役で見せたスラップスティックな演技などが印象に残る。
 そして最後に、これら2つの資質を掛け合わせたところに生まれる独特な胡散臭さである。普通、二枚目と三枚目を掛け合わせると愛嬌のある男前(二枚目半)になるのだが、風間の場合、時として二枚目の顔が欺瞞に映り、その下の三枚目の顔が卑劣に見える(ように滑稽に演じる)のだ。後ろめたさを隠すためにわざと尊大に振る舞う役柄や、どこか怪しげな人物を演らせたら、風間は実に巧い。
 たとえば、かつては『熱帯楽園倶楽部』(1994年)の詐欺師役がまさにそうだった。『SF サムライ・フィクション』(1998年)の昼行灯に見えて本当は剣豪という浪人役も、少し毛色の違う怪しさを醸し出していた。

 近年でもその勢いは衰えていない。還暦を越えて演じた『綱引いちゃった!』(2012年)の市長役の胡散臭さに至っては、もはや達人の域と言ってもいいだろう。
 この作品は、給食センターの廃止撤回を賭けて職員たちが綱引きで全国大会出場を目指す物語なのだが、そもそもその約束の相手が風間演じる市長なのだから信じる方が悪い。案の定、後半になると約束はしれっと反故にされるのである。詭弁を弄して前言を翻すシーンでの、風間の台詞回しと傲慢な表情がいい。職員に詰め寄られ、殴られたあとの乱れ髪とずれたメガネにすら、どこか作り物めいた感じをあしらうところに、風間の役者魂を感じる。
 
 胡散臭さをとことん煮詰めた怪人物役としては、『インスタント沼』(2009年)の電球のおっちゃん役が白眉である。デコっぱげのヅラと奇人全開の衣装で、風間が覚悟をもって演じきるこの骨董品屋の怪しさは尋常ではない。とにかく風変わりな人ばかり出てくる三木聡監督作品においても一二を争う強烈な役柄なのだが、この奇矯なキャラクターで、父親として主人公(麻生久美子)に人生のサジェスチョンを与える重要な役割も果たしているのだからさすがである。風間杜夫には、やはり"金"四郎よりも、"銀"四郎の偽物感の方がよく似合う。

次回は「平田 満」を予定しています。

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