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連載−飽くなき者たち−
飽くなき者たち−円熟の輝きを放つ名優の軌跡−
橋爪功の人間くささが香ばしい
掲載:2016年12月15日
橋爪功

 ごく短い出演時間であっても、昔から橋爪功の脇役はインパクトがあった。中でも40代に伊丹十三監督作品で見せた演技はいずれも個性的だった。『タンポポ』(1985年)のこなれた応対で注文を聞くベテランウェイター、『マルサの女』(1987年)の慇懃無礼な銀行員、『あげまん』(1990年)の怪し過ぎる結婚コンサルタント。どの役も、緩急自在の流れるような台詞回しと、いかにも曲者という感じの個性が際立っていた。この人は、こういう観客の好悪がはっきりと分かれる、独特なくさみのある脇役をずっと続けていくのだろうと、勝手に思っていた。
 ところが、還暦を越えた頃から、個性的な役柄だけでなく市井のごく普通の人物もさらりと演じるようになり、今となっては非常に守備範囲の広い俳優のひとりに数えられるようになった。

 『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年)で人情家の電鉄会社社長を演じたかと思えば、同じ年の『交渉人 THE MOVIE タイムリミット 高度10,000mの頭脳戦』では腹黒い政治家に扮してみせる。『永遠の0』(2013年)では死の床で淡々と戦争を述懐する元ゼロ戦パイロットの老人役、主演を務めた『東京家族』(同年)では昔気質の物静かな父親役と、作品の要となる役柄も堂々とこなす。コメディにも好演が多い。『ミスター・ルーキー』(2002年)での浪速の商人がユニフォームを着て歩いているようなプロ野球監督や、『家族はつらいよ』(2016年)での突如熟年離婚の危機に直面して狼狽する父親など、齢を重ねてくさみが抜けるのではなく、くさみは残しつつ、親近感の湧く人間くささに昇華させて魅せてくれる。矜持、嘘、妬み、思いやり、怠惰、諦念、自虐など、橋爪が演じればどれもみな香ばしい。

 人間くさいと言えば、近年の仕事の中では『奇跡』(2011年)の鹿児島の和菓子職人役が実に味わい深かった。橋爪は5年前に和菓子店を畳んで今もそこに家族と住んでいるのだが、九州新幹線の開通に合わせて町おこしになるようなご当地グルメを作れと、商店会の仲間からけしかけられている。言われるがままに、材料を工夫したかるかんを試作してみるものの、味音痴の仲間の反応は芳しくなく、ぼんやりした味だとかもうひと工夫いるなどと言われてしまう始末である。挙げ句の果てには新幹線の「さくら」にちなんでピンク色のかるかんを作ってはどうかと言われ、「かるかんは昔から白ち決まっちょっと!」とへそを曲げてしまう。
 親友役の原田芳雄だけは以前のものとの味の変化に気づき、「けっこういくど、これ」と評価してくれるのに対して、橋爪が他の仲間の無理解への失望と原田への感謝を込めて「じゃろう?」と小声で答えるところがいい。職人の自尊心と、それゆえに世間からずれていく哀愁を、ほろ苦い笑いで包んで演じるところはさすがの貫禄である。
 是枝裕和監督は、大人の事情と子供の事情の二軸をうまく絡め合わせながら、どうしようもない現実とどうにかできるかもしれない希望を丁寧に描いていく。現実は苦いだけでもなく、希望も甘いばかりではない。そんな人生の機微を、橋爪の嘘がない人間味たっぷりの芝居は見事に表現している。

次回は「倍賞美津子」を予定しています。

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