HOME ≫ 飽くなき者たち −円熟の輝きを放つ名優の軌跡− ≫ 第24回 吉行和子はまだまだこれから
連載−飽くなき者たち−
飽くなき者たち−円熟の輝きを放つ名優の軌跡−
吉行和子はまだまだこれから
掲載:2016年8月15日
吉行和子

 全盛期に何十本という作品で主役を張り、年を重ねてからは脇役に退いて年相応の存在感を示す俳優は多い。だが、全盛期は基本的に脇役で、年を重ねるほど主役の本数が増えていくというのは、あまり聞いたことがない。ましてや女優でそういうキャリアを歩んでいる役者は、かなり珍しいだろう。近年の吉行和子の活躍は、そういう意味で感嘆に値する。
 『人生、いろどり』(2012年)、『燦燦 さんさん』(2013年)、『御手洗薫の愛と死』(2013年)。今年81歳になる吉行のここ数年の主演作である。喜寿を迎えてからの2年間になんと3本。第一線の主役級俳優を凌ぐ旺盛な仕事量である。
 
 『人生~』は老主婦が自らの手で人生を切り拓いていく人間ドラマ、『燦燦~』は熟年の婚活を描いたラブロマンス、『御手洗~』ではラブロマンスにさらにサスペンス要素が加わる。いずれも、主演女優が喜怒哀楽のすべてを表現しなければならないドラマチックな作品ばかりである。それゆえに、どの作品においても、監督たちの吉行に対する演技要求は容赦ない。それでも彼女は、見事それに応えてみせている。
 中でも、かの有名な「葉っぱを売る村」の実話を元にした『人生~』での堂々たる主役ぶりが印象に残る。吉行の代表作である『愛の亡霊』(1978年)と同じ藤竜也とのコンビに、思わずにやりとしてしまう本作だが、さすがに殺人や濡れ場や拷問は出てこない。しかし、料亭につまを売る新事業へのあふれる思いから「うちが何でも言いなりになると思うとったら大間違いでよ!」と感情を剥き出しにして藤に食ってかかる芝居や、藤や富司純子との泥にまみれての熱演は、『愛の亡霊』とは違う意味での体当たり演技である。新しい仕事を見つけてわくわくすると語る主人公の姿は、そのまま女優・吉行和子の今の姿に重なる。
 
 近年の出演作としては、山田洋次監督の趣が異なる2作品も挙げないわけにはいかない。夫役の橋爪功とのW主演といってもいい『東京家族』(2013年)と、同じ共演陣で臨んだ『家族はつらいよ』(2016年)である。
 前者は小津安二郎の『東京物語』(1953年)を下敷きにしたそこはかとなくしんみりとした家庭劇、後者は熟年離婚騒動を軸にしたコミカルな家庭劇であるが、橋爪をはじめとする芸達者が居並ぶ中でも、吉行のチャーミングさは俄然目を引く。
 『東京~』での、経済観念が独特な次男(妻夫木聡)に内緒で婚約者(蒼井優)にお金を渡す場面や、その妻夫木に夫と結婚した理由を問われて「お父さん、ええ男じゃったんよ、そんだけ」と照れ笑い混じりに答える場面などは、本当にいじらしく、可愛らしい。
 一方の『家族~』では、橋爪に誕生日プレゼントにほしいものを訊かれて「そんなにお高いものじゃないの」としれっと離婚届を差し出したり、家族会議で、淡々と、しかし身も蓋もなく、夫と別れたい理由を並べ立てたりと、ブラックユーモアの切れ味も鋭い。
 この厚み、この旨味、このバイタリティーである。90歳代まで美容師を続けた母のあぐりのように、まだまだこれからも吉行には主役を張り続けてほしいと思う。

次回は「根津甚八」を予定しています。

この記事はいかがでしたか?
ボタンを押して評価してください。
この記事の感想をお寄せ下さい。
bottom_maincontent
bottom_sidecontent
年住協サポートサービス
住環境整備促進
一般財団法人 年金住宅福祉協会
一般財団法人 年金住宅福祉協会
このページのトップへ