年金講座

筆者プロフィール 長沼 明(ながぬま あきら)

志木市議・埼玉県議を務めたのち、2005年からは志木市長を2期8年間務める。日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員も歴任し、社会保険労務士の資格を有する。2007年に明治大学経営学部特別招聘教授に就任後、現職。主な著書・論文に『年金一元化で厚生年金と共済年金はどうなる?』(2015年、年友企画)、『被用者年金制度一元化の概要と制度的差異の解消について』(「浦和論叢」2015年2月号第52号 浦和大学・浦和大学短期大学部)

 一元化の施行日を迎え、年金事務所などでは新様式の書類の入れ替えなど事務作業がたいへんだったようです。
 さて、平成27年9月25日(金)、定例閣議で、一元化に関連する政令として、「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係政令等の整備に関する政令」など7本が決定されました。
 厚生労働省では、9月25日に決定された今回の一元化に関係する政令を9月30日以後、順次PDFで公開しています。
 そのうちのひとつ「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係政令等の整備に関する政令−新旧対照表目次−」のPDFデータは、なんと1,000ページもありました。
 見るのもたいへんですが、ダウンロードするのもたいへんです。そして読み込むのは、なおたいへんです。
 しかし、一度は、アクセスしてみることをおすすめします。

一元化後の振替加算の金額は1円単位 〜振替加算の金額の算出方法〜

(1)年金給付額は、1円単位の算定方法に


 年金給付額は、一元化前の100円単位から一元化後は1円単位に変わります。一元化前は50円未満は切り捨て、50円以上100円未満は100円に切り上げていましたが、一元化後は、1円単位で年金給付額を決定することになりました(一元化後の厚生年金保険法第35条第1項。一元化後の国民年金法第17条第1項。)。
 具体的には、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げる処理を行います。一元化後では、次のようになります。老齢基礎年金を例に示しましょう。

事例

昭和25年11月10日生まれの女性。平成27年11月9日に65歳になります。国民年金の保険料納付済月数430月。
老齢基礎年金の給付額を計算すると……。

780,100円×430/480=698,839.5円
            ≒698,840円(一元化後は1円単位)

 一元化後の年金給付額は698,840円となります。
 もし、この女性と同じ保険料納付済月数が430月の人で、生年月日が昭和25年8月10日生まれの女性であれば、一元化前に受給権が発生しますので、年金給付額は100円単位となり、老齢基礎年金の給付額は698,800円となります。

(2)加給年金額は、1円単位? 100円単位?

 それでは、加給年金額はどうでしょうか? 一元化後の厚生年金保険法をみてみましょう。第44条第2項です。

224,700円×0.999(改定率)=224,475円

 これを端数処理し、100円単位にするという規定は、一元化後も変わっていません。その結果、224,500円となります。
 3人目以降の子の加算についても、みてみましょう。
 同じ条文です。

74,900円×0.999(改定率)=74,825円

端数処理し、100円単位にするという規定は、一元化後も変わっていませんので、50円未満である25円は切り捨て、74,800円となります。
 加給年金額の配偶者の特別加算もみてみましょう。
 一元化後の厚生年金保険法附則(昭60年)第60条第2項です(昭和60年改正法附則を、筆者はこのように表記します。そのほうが、全国社会保険労務士会連合会編の『社会保険労務六法』中央経済社刊を使用されている人には、根拠条文にたどり着きやすいと判断するからです。)
 昭和18年4月2日以後に生まれた配偶者の特別加算について算定してみましょう。

165,800円×0.999(改定率)=165,634円

 法律の条文を読むと、一元化前と同様に、100円単位にするという規定は変わっていません。
 ということは、165,634円の34円を切り捨て、165,600円にする、ということになります。

配偶者加給年金額=加給年金額+配偶者の特別加算額
         =224,500円+165,600
         =390,100円

 配偶者加給年金額は、一元化後も390,100円で変わらないということが、法律の条文からたどり着くことができました。

(3)振替加算額は、なぜ、1円単位? 

 それでは、なぜ、振替加算額は1円単位になるのでしょうか。
 振替加算の規定は、国民年金法附則(昭60年)第14条第1項に規定されています。
 加給年金額は224,500円で、100円単位でした。これに生年月日に応じて政令で定める率を乗じて得た額を加算すると規定しています。
 政令は国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令(昭和61年)[昭和61年経過措置政令をこのように表記する]第24条に率が記載されています(【表1】参照)。
 たとえば、平成27年度に65歳になる昭和25年8月10日生まれの人だと、政令で定める率は、0.360なので、振替加算の額は、

224,500円×0.360(政令で定める率)=80,820円

 一元化前は、ここで端数処理をし、100円単位にしていました。
 ですから、昭和25年8月10日生まれの人の振替加算額は、80,800円となっていました。
 さて、この振替加算を規定している国民年金法附則(昭60年)第14条第1項には、この条文上に、100円未満を端数処理して100円単位にするという規定はありません。一元化前も同様です。したがって、一元化前の国民年金法第17条第1項の規定により、50円未満は切り捨て、50円以上100円未満は100円に切り上げて、端数処理をしていたのでした。
 それが、一元化になり、一元化後に受給権の発生した振替加算額については、一元化後の国民年金法が適用され、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げる処理を行うこととなり、たとえば、昭和25年11月10日生まれの人の振替加算額は、80,820円となったのです。その結果、振替加算額は、100円単位から1円単位となった、ということなのです。
 したがって、一元化後に65歳になる人の振替加算額の見込額を年金事務所で印字してもらうと、円単位の年金額が表示されてきます。
 あわせて、すでに振替加算の受給権の発生している人についても、平成28年4月には、額改定が行われるので、振替加算の額は1円単位になります。

 【表1】をみてもらえば、その算定過程も含め、一元化後の振替加算の全貌が理解されるでしょう。

【表1】振替加算の年金額

表1 振替加算の年金額
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