年金額は、毎年の物価や賃金の変動を踏まえて、翌年度の額が改定されることになっています。(2019年度の年金額は2018年度の年金額より0.1%引き上げられることが公表されています。)前回の『結局、年金はいくらもらえるの?』で、「年金額は、社会・経済状況の変化に対応するために制度改正が繰り返されて計算の方法がわかりにくくなっている」ということに触れましたが、年金額の改定ルールも少し(かなり?)複雑です。今回は、その仕組みを見てみましょう。

1基本ルールがあるが、「例外」の状態が続いている

新規裁定者は賃金スライド、既裁定者は物価スライドが基本

 年金額の改定ルールを見ていくにあたり、まず言葉の説明をしておきます。(くわしく説明すると複雑になるので、そういうものだと理解してください。)

○新規裁定者  : 新たに年金をもらい始める人(※)

○既裁定者   : 既に年金をもらっている人(※)

○物価スライド : 物価(消費者物価)の変動率に合わせて年金額を改定(増額や減額)すること

○賃金スライド : 賃金(名目手取り賃金)の変動率に合わせて年金額を改定(増額や減額)すること

※年金額の改定においては、3年度前の指標が用いられることから、その年度中に到達する年齢が67歳以下の年金受給者を「新規裁定者」、68歳以上の年金受給権者を「既裁定者」として取り扱います。

 年金額の改定は、基本として物価と賃金の変動がベースとなり、まず次の4パターンの組み合わせが考えられます。

【図1】物価と賃金の変動の組み合わせの基本パターン

【図1】物価と賃金の変動の組み合わせの基本パターン

 そして、年金額は新規裁定者は賃金変動、既裁定者は物価変動をベースに改定することが基本となります。

【図2】年金額改定の基本ルール

A.新規裁定者は、「賃金」の変動をベースに改定
B.既裁定者は、「物価」の変動をベースに改定

とすると、図1の基本パターンと図2の基本ルールからすれば、

パターン1 … 新規裁定者:賃金上昇に合わせて年金額が引上げ⤴
既裁定者 :物価上昇に合わせて年金額が引上げ⤴

パターン2 … 新規裁定者:賃金上昇に合わせて年金額が引上げ⤴
既裁定者 :物価下落に合わせて年金額が引下げ⤵

パターン3 … 新規裁定者:賃金下落に合わせて年金額が引下げ⤵
既裁定者 :物価下落に合わせて年金額が引下げ⤵

パターン4 … 新規裁定者:賃金下落に合わせて年金額が引下げ⤵
既裁定者 :物価上昇に合わせて年金額が引上げ⤴

と改定されるはずですが、実際は異なり、次のような例外ルールが適用されます。

【図3】年金額改定の例外ルール

C.「物価」「賃金」とも上昇で、「物価」が「賃金」より上げ幅が大きい場合には、既裁定者にも賃金スライドを用いる。

D.「物価」「賃金」とも下落で、「賃金」が「物価」より下げ幅が大きい場合には、新規裁定者にも物価スライドを用いる。

E.「物価」は上昇・「賃金」は下落の場合には、新規裁定者・既裁定者ともスライドしない(改定しない)

なぜこのような例外措置がとられるかいうと、年金制度は現役労働者の賃金の伸びに合わせることが基本であり、次のような理由によります。

●既裁定者の改定率が新規裁定者の改定率より大きくなると、給付と負担の長期的な均衡が保てなくなる。

●上記の一方で、年金額を物価変動や前年度の年金額(名目額)を超えてまで下げることまでは困難。

 したがって、図1において、【パターン1】「物価も賃金も上昇」は、さらに「物価>賃金」と「賃金>物価」に分けられ、同様に【パターン3】「物価も賃金も下落」も、「物価>賃金」と「賃金>物価」に分けられます。
 以上を整理すると、次のようになります。

【図4】年金額の改定(スライド)のルール

【図4】年金額の改定(スライド)のルール

さらにマクロ経済スライドによる調整

 年金額の改定では、見てきたような「賃金スライド」または「物価スライド」(あるいは「スライドなし」)だけでなく、「マクロ経済スライド」による調整が行われます。これについては、2019年度の年金額改定の説明と合わせて、次項で解説します。
 なお、図4で整理したスライドのルールは2021年度から見直される予定になっています。これについても後述します。

point

1.年金額は、新規裁定者は賃金変動、既裁定者は物価変動をベースに改定することが基本

2.ただし、長期的な年金財政や社会・経済情勢、年金受給者の生活などを踏まえ、例外的なルールが設けられている

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