安藤俊介さん

安藤俊介さん

 近年、中高年を中心に人前で「キレる」人が増えているといわれています。実際に、駅や公共施設、お店などで、怒りを人にぶつけている人を目にすることはないでしょうか。また、皆さん自身、ささいなことがきっかけになって、人前で怒りを爆発させてしまったことはないでしょうか。「怒りの感情はごく自然なことですが、むやみに人にぶつけても何もいいことはありません。」一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介さん(代表理事)はそういいます。では、抑えがたい怒りに私たちはどう対処したらいいのでしょう。怒りとうまく付き合う方法を、安藤さんにお聞きしました。

中高年になると「キレ」やすくなる?1中高年になると「キレ」やすくなる?

社会の変化が「キレる」機会を増やす

■図 “べき”の境界線

■図 “べき”の境界線

 一般に「歳をとると丸くなる」と思われていますが、近ごろは反対に「キレ」やすい中高年が増えているといわれます。本当にそうなのでしょうか。

 「一般的な話として、感情をコントロールする前頭葉は年齢とともに徐々に萎縮していくので、歳を重ねると怒りを抑えにくくなるということはあります。しかし、実は、中高年が『キレ』やすいという客観的なデータはありません。怒りは、日常生活の中で誰もが感じる、ごく自然な感情です」と安藤さん。「怒りの感情は、自分が信じている『こうあるべき』という思いと現実との間にギャップができたときに生まれます。例えば、自分が守る『べき』だと信じているマナーを守っていない人がいたら、『許せない』となって怒りが生まれるわけです(図の③の部分)。これは年齢に関係ありません。」

 しかし一方で、社会的な状況は、このような怒りを引き起こす機会を増やしていると安藤さんは分析します。「昨今の中高年の方々の『キレ』やすさについては、生理的な要因よりも社会的な要因のほうが大きいと考えています。時代は大きな転換期を迎えており、働き方や家族のあり方に対する考え方が変わり、社会保障制度など世の中のしくみも見直されるようになっています。これまで信じてきたこと、あるいは、当然こうなると考えて従ってきたことが、当たり前のことではなくなってきている。信じてきた『こうあるべき』が裏切られる現実を目の当たりにして、怒りを感じる機会が増えているのだと考えられます。」

社会の「たが(箍)」が外れると

 若いときはそうでもなかったのに、高齢になって仕事をリタイアしたら怒りっぽくなった。そんなケースは身近にないでしょうか。これも、周囲の状況の変化が怒りを爆発させる機会になるからだと安藤さんはいいます。

 「現役時代であれば、『家族に心配をかける』『会社に迷惑がかかる』という気持ちが『たが(箍)』となり、公共の場で怒りを爆発させることを抑制させていました。ところが、組織を離れ、子どもや親族とも離れがちになり、さらに、地域のコミュニティとも関わりを持たずに暮らしていると、孤立が進み、『たが』がかからなくなっていく。自分が何をしても迷惑がかかる人はいないという状況になってとっさの歯止め(たが)がかからず、人前で思わず怒りに任せた行動をとってしまう。そこに、『自分は間違っていない』とか、『この年だから人から尊重されてもいいはず』という思い込みが加わると、さらに怒りやすくなってしまうでしょう。」

どのような人が「キレ」やすくなる?

 お話からは、「こうするべき」と真面目に考えている人ほど怒りやすくなる、そんな印象を抱きます。実際はどうなのでしょうか。

 「真面目というより、『自分が信じているもの(「べき」)を譲れない』という人に多いのではないでしょうか。時代の流れになかなかついていけず、疎外感が大きくなってしまう。疎外感は怒りの大きな要因です。

 もちろん、自分の価値を守るのは大切なことです。しかし、社会は変化していくので、柔軟な心を持ち、変わっていくことを受け入れる『ゆるさ』も必要です。自分の価値観にこだわるあまり、自分や周りの人たちが健康的ではない状況に陥っていると感じることはないでしょうか。自分の考え方を少しゆるくしてみる。合わせられるところは合わせ、自分を変えてまでそうしたくないところはそのままでいい。『キレ』ないためには、少しだけ心に柔軟性を持つことが必要だと思います。」(安藤さん)

「アンガーマネジメント」とは?

 怒りの感情と上手に付き合う技術として、「アンガーマネジメント」への関心が高まっています。アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで生まれた「怒りの感情(アンガー)と上手に付き合う(マネジメント)ための心理トレーニング」のこと。「怒らなくなるのではなく、あくまでも怒るべき場面でちゃんと怒り、怒らなくていい場面では怒らないことを身に付けるトレーニング。よりよく生きるためのスキルを学ぶ方法です。」(安藤さん)

 近年、その重要性が世界各国で認められ、公的機関や企業、教育現場などに取り入れられるようになりました。日本では、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会がこのトレーニングを実施しており、企業などでの導入事例が増えているということです。

 怒りっぽくてつい「キレ」てしまい、後悔することがよくあるという方に向けて、安藤さんはエールを送ります。「『怒りっぽい自分を変えたい』という方は、まず、自分で『変わるんだ』という意思をしっかり持つこと。しっかりとした意思があれば、誰でも変わることができます。」

◎一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 公式ウェブサイト

https://www.angermanagement.co.jp/

 次のページでは、怒りの感情との付き合い方について紹介します。

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