寒い季節になってくると、暖房のきいたリビングから廊下へ出たときに“ヒヤッ、寒い”と感じることがありませんか。実は、これが生命を危険にさらす「ヒートショック」に結びつく可能性があります。特に高齢者や、高血圧・糖尿病の持病を持っている方は注意が必要です。
 今回は、高齢者の住宅設計・改修を数多く手がけ、自宅で安心して暮らし続けるための講座を行っている建築士の市瀬敬子さんに、ヒートショックの不安なく、安全・快適に暮らせる住環境づくりについてお話を伺いました。

市瀬敬子さん

お話を伺った建築士の市瀬敬子さん

プロフィール:
二級建築士、福祉住環境コーディネーター1級、高齢社会の住まいをつくる会理事 NPO法人世田谷福祉住環境コーディネーター研究会理事、建築士事務所スタジオ・ヴォイス主宰

1ヒートショックってどんなもの?

冬場のお風呂は要注意

 ヒートショックとは、急激な温度差によって血圧の急上昇・急降下を引き起こし、心臓や脳に大きな負担がかかって身体がショック状態になる症状のことをいいます。特に多いケースの「冬場の入浴」を例に、そのしくみを見てみましょう。 
 暖房のきいたリビングから廊下へ出ると“ヒヤッ”、お風呂に入ろうと寒い脱衣所で服を脱ぎ、震えながら熱いお湯にドボン…。この一連の動きに血圧の変化を重ね合わせてみると図1のようになります。
 暖かい居間で安定していた血圧は、寒い廊下に出ることで上昇し、脱衣所に行って衣服を脱ぐことで体表面の温度が下がりさらに上昇、その後お風呂の熱いお湯に浸かり身体が温まると一気に下がります。
 ジェットコースターのように急上昇、急降下する血圧により体に大きな負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中を引き起こしたり、また失神を引き起こしたりすることがあるのです。湯船の中で失神すれば、お湯に沈んで溺死してしまう恐れがあります。

図1 冬場の入浴に伴う血圧変動

図1 冬場の入浴に伴う血圧変動

ヒートショックで亡くなる人は交通事故の4倍

 交通事故による死亡者数は4,611人。これに対し、約17,000人もの人が家庭内事故で死亡しており、そのうち高齢者の割合は8割以上の14,000人にのぼると推計されています。
 意外と思われるかもしれませんが、高齢者は交通事故で亡くなる人の約4倍が家庭内事故で亡くなっているのです。 (東京都健康長寿医療センター研究所調査)家庭内事故死は転倒・転落、誤嚥による窒息などがありますが、一番多いのは溺死・溺水です。
 また、月別の入浴中心肺停止状態発生件数(図2)を見ると、最も少ない8月の71件に対し、最も多い1月には779件と約11倍に上っています。気温が低い時期のお風呂でのヒートショックには細心の注意が必要ということがわかります。

図2 入浴中の心肺機能停止者数 (2011年)

図2 入浴中の心肺機能停止者数 (2011年)

〈東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリースより〉

日本の住宅がヒートショックの原因?

 ヒートショックの防止には、家の中の温度差を少なくすることが大切です。しかし、高齢層の方々は、子どもの頃からの積み重ねで廊下やお風呂場、トイレ、納戸などは寒いことを当たり前と捉えてしまいがち。市瀬さんによると、この寒さは日本の伝統的な家づくりの考え方に起因するのだそうです。
 「夏に高温多湿になる日本では、家を長く保つためには湿気をこもらせないことがいちばん大切です。そこで日本の家は、風通しを良くするために気密性が低くなっており、床を上げて、夏用にできています。現在は高気密高断熱の家も増えていますが、昔の家は基本的に冬は寒く、そのため、いちばん陽射しの入る南向きに居間などの良い部屋を置き、トイレや浴室などの水廻りを北側に造っています。
 最近は暖房器具が高性能になって、隙間風の入る昔の家でもだいぶ暖かくすることができるようになりました。でも逆に、北側にあり湿気で冷えるお風呂場との温度差がさらに大きくなってしまったわけです。高齢者になるほど我慢強く、『実家はもっと寒かった』などと受け入れてしまう方も多いのですが、ぜひこの危険性を理解して、環境を改善していただきたいですね。」(市瀬さん)

 それでは、ヒートショックを起こさない住環境づくりはどのようにできるのでしょうか。次のページで具体的な対策を伺います。

 

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