人生の終末期に向け、身近な人に伝えたいことを書き残す「エンディングノート」。少子高齢化が急激に進む現在、多くの人の関心を集めていますが、一方で、「書き始めたもののなかなか書き続けられない」という声も多く耳にします。その理由は何でしょうか。また、書き上げるにはどのようにしたらいいのでしょう。
 『実践エンディングノート』(共同通信社)の著者、尾上正幸さん(株式会社東京葬祭・取締役)に、エンディングノートの活用法について伺いました。尾上さんは、「他の人」のために、「死」に向けて書くものという常識を考え直し、「自分」のために、そしてよりよく「生きる」ためにノートを活用することを提案しています。

1エンディングノートの基本

核家族化を背景に重要性を増す

尾上正幸さん

 「エンディングノート」という言葉をよく目にするようになったのは比較的最近のことですが、日本で注目されるようになったのには、「家族形態の変化の影響が大きい」と尾上さんはいいます。
 家族が三世代、四世代で暮らしていた時代には、エンディングノートは存在すらしていませんでした。家族が毎日、三度の食事のたびに卓袱台を囲むような暮らしでは、コミュニケーションが密で、お互いが考えていることを共有することができたからです。しかし、核家族化が進んで親子が別々に暮らす時代になり、コミュニケーション不足を埋めるために、何らかの形で意思を残しておく必要性が生じました
 「かつて『社葬ブーム』といえる時期があり、その頃、事業主が亡くなったときに、業務や顧客を引き継いで安定的に組織を存続させるために、前もって用意された『社葬マニュアル』というものがあることを知りました。家族のコミュニケーションが不足しているいま、これは家族にも必要とされているのではないかと考えて、その内容を練って個人用に落とし込んでつくったのが『実践エンディングノート』(2010年)です。他にも、“終い支度”を目的としたエンディングノートがいろいろと出版され始めたのは、ちょうどこの頃のことでした。」(尾上さん)

これだけは伝えておきたい基本の8項目

 エンディングノートは家族のあり方の変化を背景に広まり、現在では、書店で販売されている工夫を凝らしたものから、自治体や企業などが無料で配布するシンプルなものまで、さまざまなタイプのものが登場しています。しかし、主な内容はほぼ共通しており、残しておくべき項目として次の8つが基本になると考えられます。

エンディングノート、基本の8項目

①自分史

 配偶者でも、結婚前のことや仕事場でのことはよく知らないもの。経歴や幼い頃の記憶、携わってきた活動、信条、人生の転機などを振り返って伝える。自分自身でも人生の整理ができ、さらに、これから先の自分の歴史という意味合いもある。

②家系

 自分の両親、配偶者や子どもについて、思い出とともに書き留める。余裕があれば、家系図を書くのもよい。さらに、宗教やお墓、家紋など、受け継いでほしい「家」のさまざまなことを伝える。

③医療

 既往症や常備薬、かかりつけ医などのほか、もしもの時に告知を望むのか、延命治療を望むのか、臓器提供の有無などの希望を記す。

④介護

 介護が必要になった時に誰に頼みたいか、どの程度の費用の準備があるか、どこで暮らしたいのかといった意思表示をしておく。

⑤財産

 預貯金、不動産などの財産、ローンなどの借財といった財産目録や、年金、生命保険、入会しているクレジットカードなどのリストをつくる。形見分けの希望やペットの処遇など、遺言書には書けない財産やお金に関することもまとめておく。

⑥葬儀

 葬儀の形式、規模、場所、内容などを考える。自分らしさを振り返るきっかけにもなる。また、遺族は、本人が希望していたとおりに葬儀を実行することで故人とのつながりを感じることができ、グリーフケア(死別の悲しみに対する癒し)にもつながる。

⑦供養

 遺骨を墓地に埋葬するほかに、屋内墓園や合祀なども選択肢として考えられるようになってきた。また、海に撒く海洋散骨、地面に撒いたうえで植樹をする樹木葬、身近に置いて供養する手元供養など、供養の方法が多様化している。埋葬の希望、散骨の希望、分骨の希望、その後の法要に関する意思表示をする。

⑧メッセージ

 パートナーや肉親をはじめとする大切な人たちに残したい思いを文字で残しておく。

 市販されているエンディングノートのほとんどは、この8項目を軸にして書き込むようになっていますが、それぞれ趣向を凝らして少しずつ内容にバリエーションを持たせています。たとえば、好きな食べ物やおしゃれなど、「自分らしさ」についての項目が充実している女性向けのもの、また、法律家の観点からつくられた、財産に関する項目が詳細に書き込めるものなどもあります。普通のノートに考えたことを自分なりに書いてもいいのですが、書き方に迷う場合は、書店のコーナーに行って市販のノートを見てみるといいでしょう。選択のポイントは、自分が大切に思っている項目が充実しているもの、そして何よりも、楽しそうだと心を動かされるものです。

遺言書だけでは不十分?

 エンディングノートは遺言書とよく比較されますが、最も大きな違いは、遺言書は法律で守られる一方、エンディングノートには法的な効力がないという点です。そのため、特に大きな財産がある場合などは、エンディングノートはともかく、遺言書を作成するべきだと思われがちです。しかし、尾上さんは「遺言書を書くなら、エンディングノートも書いたほうがよい」と考えています。
 「エンディングノートは『遺言書の簡易版』といわれたりしますが、むしろ『遺言書を補うもの』だと思っています。よくあるのが、ご本人の死後に初めて遺言の内容が明らかになって、『納得がいかない』とご遺族の間でトラブルになってしまうケースです。とっさに事実を突きつけられても、遺族には準備がなく、亡くなった方の考え方が理解できない、ということでしょう。しかし、一緒にエンディングノートがあればどうでしょう。ご本人の生き方やそのバックグラウンド、信条などが伝わって、なぜこのような遺言になったのか、受け取った側も納得しやすくなるのではないでしょうか。」(尾上さん)
 エンディングノートの必要性は、尾上さんもご自身の経験から実感しています。
 「父が入院していた病院に見舞いに行ったとき、久しぶりだったため気恥ずかしさで深い話はできず、『また今度ゆっくり』とすぐに別れてしまいました。でも、次に会ったとき、それは危篤の知らせを受けて駆け付けたときでした。父はたくさんの管につながれていて、とても話せる状態ではありませんでした。間もなく亡くなり、後になって、病院での治療は父の本意だったのだろうかと考えさせられました。また生前、『お父さんが何か話しておきたいことがあるらしい』と伝え聞いたこともあり、父は私に何を言いたかったのだろうと、できるときに話をしなかった後悔は今でも残っています。『これくらい言い残してほしかった、聞いておきたかった』という思いや悔いが、私のエンディングノートの原点です。」(尾上さん)
 このように、エンディングノートは、家族のコミュニケーションの足りない部分を埋める働きをもっています。残す側、残される側の双方にとって、実務面、感情面で切実な意味を持つということができるでしょう。

 尾上さんはその後、多くの人の「終活」に関わるうちに、少しずつエンディングノートに対する考え方を発展させていきます。ノートに対する新しい捉え方と活用方法について、次のページでさらにお聞きします。

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